DESIGNMAP

「ウェブデザイナーは一生続けられる仕事ですか?」を、もう一度、根本から考える

記事公開日:2011年08月13日

Webデザイナーになった後

ウェブデザイナーは一生続けられる仕事ですか?」という短いエントリーを、昨年(2010年12月)に書いた。このエントリーはこれはある場で、23歳の男性から質問されたのがきっかけで、かーっとなって書いたエントリーである。

この自分の書いたエントリーを読み返すと、ただ"勉強すればOK"という素朴な内容になっていて、恥ずかしい。Web技術は早いサイクルでどんどんかわってゆき陳腐化(一般化)する。だから、どうしても継続的に勉強は必要である。

どの分野をインプットするのかを考えることが、一番重要

でも、インプット(勉強)をいくら頑張っても、アウトプット(作品)がしょぼければ、もしくは習得した技術に競争力がなければ(もしくは需要がなければ)、評価(採用)されないし、良い条件で仕事をとることは難しい。

勉強といっても、受験勉強や資格試験と違い、どの分野をインプットするのかという判断を自分で決めないといけないのが難しい。

私は資格試験の勉強に、時間を使うことをすすめない理由は、勉強の範囲があらかじめ決まってしまっているからである。かならず実務のレベル、ニーズとズレがでる。資格自体が産業化してしまい、自己目的化する宿命をもつ。

スキルに多様性をもたせるには

このインプットの範囲や分野を探したり、悩むことが重要なのだ。一番面倒で苦しい。人に「何をしたらよいですか?」と答えをききたくなる。でも自分で判断することで、スキルに多様性がでて、その人のオリジナリティや希少性がでてくる。取り替えしにくい商品になる可能性が高まる。

"流行もの"の技術に手をだすのが一番手っ取り早い。日本語でよめる入門書もでているし、講習会もあるだろう。逆にこの時点で"一般化"しているという証拠でもある。出来る人が多いので、技術を習得しても仕事(アウトプットの機会)がとれるかは難しい。もしくは、とるにも高いレベルが必要になるだろう。また、とれても供給者が多ければ、単価や給料が安いだろう。需要があるのに、供給がない分野をみつけること、みつけた後、自分のポジションをずらし続けること。これが難しい。

私はこの事実を投資信託の購入経験で学んだ。証券会社や銀行からは、ひんぱんに投資信託のキャンペーン案内がくる。新商品も頻繁に発売される。経験者ならご存知だろう、本当に個人投資家にとってよい投資信託は宣伝されないし、証券会社は積極的に売ろうとしない。ランキングにもはいらない。熱心に売ってくる商品はスルーしたほうがよい。インプットする技術を選ぶときも同じ注意が必要だ。

アウトプットの機会をどうつくり続けるのか

話がずれてしまったので、本題に戻そう。"ウェブデザイナーという仕事を一生続けられる仕事"にするには、収益につながるアウトプットの機会をどうつくり続けるのか、という問題に結局いきつく。個人だったら自分という商品をどうすれば、希少性の高いものにするかを考え続けることになる。

他の職業でもおそらく同じだろう。たとえば「建築家は一生続けられる仕事ですか?」ときく人は、質問自体が愚問であることに気がつくだろう。答えは、その人しだいである。その制作者のブランド力、希少性があれば、いつまでも仕事は絶えないだろう。

巨匠ルイス・カーンのように、大きな借金、未完了プロジェクト、複数の家族を抱えたまま死ぬ直前まで、仕事をしていた人もいる。73歳にして現役だった。映画『マイ・アーキテクト ルイス・カーンを探して』がおすすめ。

ある街(中央線沿線なのだが、駅名や店名は伏せておく)で、80歳にして、現役で自家製麺のラーメンをつくっている人がいる。場所はわかりにくいのに、ちゃんとお客さんがきている。

まず体が健康なのが重要な条件、つぎにお客さんがくるかどうかである。この二つの条件が重なって、ようやく一生仕事ができる。

自社プロジェクトの重要性

Web制作の場合、受託制作(お客さんから注文をうけてオーダーメイドで制作する)以外に、サイト運営をしてお客さんにサービスを提供する道もある。

鎌倉のWeb制作会社、カヤックのように、両方を戦略的にミックスしている会社もある。自社サービスで先端ノウハウをためて、有利な条件で受託開発をとるのだ。またおもしろい案件や自社サービスをすることで、優秀な人材が宣伝しなくても寄ってくるし、辞めなくなる。

中村勇吾さん率いるtha社も、受託制作だけでなく、意識的に自社運営サービスを定期的にリリースしている。tha社が運営する「FFFFOUND!」は月4,000万PVを超えているウェブサービスだ。

自社サービスは有料会員、広告収入、手数料などで収益をあげる方法である。もちろん、この道も収益を安定させるのは容易ではない。老舗Webマガジン「SHIFT」は最初の頃は、受託もやっていたようだが、そこから早い段階で脱却している。ウェブデザイナーを一生続けられる仕事にするためには、どう自立して食べてゆくかにかかっている。

WebデザイナーよりUXデザイナーという言葉のほうがしっくりくる

ここまで書いてきて、Webデザイナーという言葉が指す範囲の狭さにうんざりしている。

私の知っているWebデザイナーの方々の広いスキルを観察すると、Webデザイナーというより、UXデザイナー(ユーザー体験を設計するデザイナー)という呼び方のほうがしっくりくる。UXデザイナーという言い方が、Webデザイナーに要求されるスキルの多様性(デザイン、プログラミング、ネットワーク)をうまく表している。UI(ユーザーインターフェイス)デザインの仕事は、Webだけに限らない。駅の広告、エレベーター、電車、家電、携帯電話、駅の券売機、ATM、自動販売機など多岐にわたる。

2000年当時から、Webデザイナーは多様なスキルを勉強していた。ただタグ打ちをして満足している人は少ないだろう。

Webエンジニアでも意識の高い人は、建築やプロダクトデザインの本を読んできたはずである。建築家クリストファー・アレグザンダーの本なんかは、Webデザイナー、Webエンジニアの両者が手をだした本だろう。


Webデザインをするのに、機能、レイアウト、操作感、画面遷移、タイポグラフィー、音、配色、UIパーツのスキンデザインという様々なレイヤーの要素が絡み合う。Webデザイナーは表面のスキンデザインだけをする職業ではない。UXデザイナーという言葉のほうがしっくりはまる。

これらを具体的なスキルに落とし込むと、Illustrator、PhotoshopなどのUIパーツやビジュアルスタイルをつくるツールの習得だけではなく、ユーザビリティ、認知心理学、プログラミング、情報設計、UIデザインパターン、サイト分析などの知識が必要になる。

全体と部分、構造と表層を同時につくる感覚、ワークフローの再考を

表層のビジュアルデザインからつくるより、実際に画面遷移するモックアップをコーディングしてつくってから、同時に表面のスキンデザインを考えるワークフローが理想である。建築やプロダクトデザインに近いだろう。プロダクトデザイナーの山中俊治さんは「製品の外観と内部構造は一体に開発されなければならない」という言葉で表現している(『デザインの骨格』)。構造と皮を同時に考えるイメージである。

建築家の後藤武さんは「建築は部分が順序を追って全体になるという時間軸に乗っておらず、部分と全体が同時に操作されて帰着点を見いだしていく芸術」と対談本で語っている(『デザインの生態学』)。部分と全体がつながる不思議な感覚はWeb制作をされている人も感じている人がいるかもしれない。カンプデザイン先行でデザインをつくる今のWeb制作のワークフローに違和感を感じてきた方もいるだろう。


再帰的にこの問題は考えたい

定期的に「ウェブデザイナーは一生続けられる仕事ですか?」問題は考えたいし、一生続けられる仕事にするつもりで頑張っている。おそらく成熟しない仕事なので、退屈することはなさそうだ。

1999年頃、個人サイトを運営していたWebデザイナー(その多くは、最初からUXデザイナーだった)は10年以上たったいまも、現役で頑張っている。みんなポジションはそれぞれだ。Webサイト制作が仕事にならない時代から、個人サイトをつくっていた、モノ作りが好きな人たちだ。Webスキルが活かせる業界は年々裾野がひろがっている。Web制作の未来に関しては、基本的に、私は楽観的である。

↑このページの上に戻る