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『横井軍平ゲーム館 RETURNS』

記事公開日:2010年07月18日

ブックガイド

制約から生まれる開発術

玩具は、価格、サイズの部分で制約が大きい。まず高いおもちゃは買ってくれず、コストとの戦いである。だが、逆にこの制約がデザインを決める。

ウルトラマシン(家庭用バッディングマシーン)では、流通コストを抑えるためにバットを伸縮できる仕様にしている。レフティRXは当時高価だったラジコンを、機能をしぼることで低価格で発売している。

十時キー(十時ボタン)は、カーソルなので負荷がかかるため耐性があること、かつコストが安く、手元をわざわざみないでもどの方向を押しているかがわかるという制約のもとであのデザインがうまれている。

ゲーム&ウオッチの誕生秘話

ゲーム&ウオッチの開発秘話もおもしろい。たまたま任天堂の社長の車の運転手が風邪で休みで、社内で唯一左ハンドルを扱えるのが横井氏だったという。そういうわけでその日は横井氏は急遽一日運転手を務めることに。

そのとき、車の中で大人がこっそり手の中で遊べる電卓サイズのゲームをつくりたいと社長に話したという。そのときは、あまりよい反応をもらえなかったが、その後、ある会合で社長がシャープの社長と席が隣り合わせになって電卓ゲームの話をきいて、急遽ゲーム&ウオッチのプロジェクトがはじまった。そのゲームウオッチは世界的なヒットになる。ゲーム&ウオッチの予期しない成功で任天堂は経営難の危機を乗り越え、ファミリーコンピューターの開発にのりだし、世界的なゲームメーカーになってゆく。

ゲーム&ウオッチは観察と制約から生まれた

すごいのは、大人がこっそり手の中で遊べるという発想である。その発想からあの手の中におさまる形やボタンだけで遊べるシンプルなゲームが生まれたのである。数ある制約がストンと消えてデザインが生み出されてゆく。

「ゲーム&ウオッチ」は新幹線の中で思いついたんですね。新幹線の中での退屈しのぎにサラリーマンが電卓を使って遊んでいた。 (中略) 新幹線の中で大きなゲーム機を出して遊ぶというのは、我々サラリーマンには恥ずかしくてできない。どうしたら人目につかずにさり気なく遊べるかというと、座ったときに人間は自然に前に手を組む。その姿勢で遊べるというのがいいだろうと考えました。  その状態では、親指で操作するしかない。それで、この横型の筐体ということになったんですね。

サラリーマンは入社のタイミングが大きい

横井氏が入社したタイミングがよかった。横井氏が入社したときは、任天堂は未熟な会社で開発部さえなかった。

電気工学科卒業の本人も落ちこぼれて入社して大学のまわりからも馬鹿にされたという。当時、任天堂はトランプや花札の会社だった。電子工学の知識は活かされない。最初に配属されたのは、設備の保守点検で、定年まで安穏に勤められればいいかなという気分だっという。この間違った入社自体が氏の有名な開発哲学の「枯れた技術の水平思考」だったとおもう。

初期の傑作は横井さん自信が図面をひき、旋盤をつかいモックアップをつくっている。そのモックアップをおもしろがり自由にやらせてくれる土壌があった。それが、横井氏と任天堂を予期しない成功に導く。

自分の企画を客観的にみること

横井軍平さんは企画に対して厳しい。自分の企画でも第三者の冷静でシビアな視線を忘れないようにしている。

自分の企画についつい惚れ込んでしまうということがあります。任天堂時代にもそういう人がアイデアを持って売り込みにくるわけです。話を聞いてみると、口から泡を飛ばして惚れ込んで説明するんですけど、横から聞いたらバカかなと思うくだらないアイデアなんですね。開発者というのは、えてしてそういう間違いに陥りやすい。私がいつもどういう気持ちでいるかというと、自分で企画した商品がデパートで売っていると。そこで、私が考えた商品じゃないとして、それをお金を払って買う気になるかどうかということをいつも自問自答しているのです。

部下を伸ばすプロデュース術

横井さんが発明したもののうち彼の名前で特許をとったものは半分くらいだという。部下の名前で申請させて花をもたせたそうである。部下のアイディアも横取りせず、部下といっしょに社長に会いにいき部下のアイディアですと告げたそうである。

玩具の企画・開発に興味がある人だけでなく、プロデュースやディレクション術も参考になるので、プロデューサー、ディレクターをやっている方にもおすすめしたい。

余談だが本書は古書市場で8万円という超プレミア価格がついていたそうである。筆者も古書市や古本屋をずいぶん回ったが、入手はあきらめていた。今回の復刊は本当に嬉しい。これからも繰り返し何度も読み直す一冊になりそうである。ものつくりに関わっている人には強くおすすめしたい一冊だ。

横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力

横井軍平ゲーム館 RETURNS ─ゲームボーイを生んだ発想力

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