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Web業界への就転職活動の進め方

記事公開日:2012年10月28日

就転職活動のすすめ方

Web業界への就転職活動の進め方を書くまえに、いったいどこまでがWeb業界なのだろうか。前に、『未経験からWebデザイナー、Webクリエイターを目指す人のためのWordPressとTwitterをつかった就転職活動のすすめ』でかいたように、実際は、個別の業界があるだけで、Web業界というものは存在しない。ただ、議論のために範囲を決めると、以下の会社が中心だといえよう。

  • Web制作会社(受託開発、お客さんからWeb制作を請け負って制作したり、運営の代行をする)
  • Webサービス会社(自社開発、クックパッド、Yahoo、Google、Twitter、Facebookなどが有名)

この根拠は、ある程度の専門性や価値観を共有している範囲と考えた。 広告制作会社や印刷会社もWebをつくっているが、たとえば「プログレッシブエンハンスメント」の重要性は共有しにくいだろう。でも、Web制作会社やWebサービス会社なら、ある程度はその重要性や価値観を共有できるとおもわれる(もちろん、Web制作会社も実際はレベルや価値観がいろいろではあるが)。

この2つの会社は、専門性を共有しているので、Web制作会社からWebサービス会社へ転職は可能だし、逆も可能である。説明上、2つにわけたが、カヤック(鎌倉にあるWeb制作会社)のようにWeb制作とWebサービスの両方をやっている会社もある。

ということで、今回の就転職活動の進め方は、上記の2つの会社に入るにはどうしたらよいのか、という内容で書き進めていきたい。

Web制作会社を知ろう

まずは、相手のことを知っておこう。いくつかの軸でWeb制作会社を分類することができる。

どこから案件を受注しているのか

1つめの軸は、どこから案件を受注しているのかである。大きく整理すると、以下の通りである。

  • クライアント直
  • 広告代理店
  • 制作会社

優先的に、応募したほうがよいのはクライアント直の案件をメインでやっている会社である。理由は、クライアント直でやっている制作会社のほうが、相対的に無理なスケジュールが少ないからだ。クライアント直が多いかは、応募の段階で、取引先や実績のスタッフクレジットで確認できる。不明な場合は、面接で、クライアント直の案件の比率を確認するとよい。

クライアント直が多い制作会社はどうやって受注しているのか。ひとつのやり方を紹介しよう。まず、テーマ別にブログを数本たてて地道に更新をする、担当者に制作会社の存在を知ってもらい、セミナーや相談会にきてもらう。もしくは研究会や勉強会をたちあげて参加してもらう。参加の際に、名刺をだしてもらい見込み客を集めるという手法である。これは短期の受注は難しいが、もっとも正攻法で有利な条件で受注できる。

短期の受注を狙うなら、検索連動型広告(Google AdWordsが有名で、リスティング広告ともいう)を出稿して、ランディングページにアクセスさせて問い合わせをもらい反響を待つという手法である。このあたりの営業手法の違いは、後で述べる経営陣の出身職種によってかわってくるところだ。

数人規模でやっている会社に多いのは、他の制作会社から案件をもらうケースである。マンションの一室で静かにやっている数人規模の会社に多い。WebDesigning誌 2011年10月号『Webデザイナー白書』によれば、10人未満の会社が50%をしめている。フリーランスの多くは、制作会社の下請けである。

案件の規模

2つめの軸は案件の規模である。大規模サイトで、がっちり分業している会社と小規模〜中規模サイト中心でゆるく分業している会社では大きく働き方が異なる。ゆるい分業体制だと、案件によっては1人で何役もこなすことになる。これに関してはどちらがオススメとは一概にはいえない。

私が、Web業界にはいったのは2000年だった。当時、完全に分業をしているキノトロープとゆるく分業しているイメージソースという対照的なWeb制作会社があった(両社ともいまもあるが、現在の分業体制がその後どうなったかはわからない)。個人的には、イメージソースの案件ごとに役割をかえるという手法に影響をうけた。何かのテレビ番組で、イメージソースがでていたのをいまも覚えている。制作者が3人ほど映っていて、当時社長だった伊藤幸治さんがインタビューで、うちのスタッフはデザインとプログラミングの両方ができるんですよと答えていた。私も、ディレクション、デザイン、プログラミングをこなせるというのを目標に勉強してきた。結局は、私の能力では無理だったけど。

地方都市のWeb制作会社だと、ゆるい分業体制が多く、会社自体もWeb制作だけでなく、紙や映像まで少人数でこなしているケースが多い。

会社の時期

3つめの軸は制作会社の立ち上げ時期である。この時期によって、求人のニーズは大きく異なる。

立ち上げてまだ1〜2年くらいの小さな会社で、もともと社長1人か、仲間数人という規模の場合、ある程度、スキルや経験がある人や、相当なスキルをもっている人を求めている。研修システムも、教える余裕もないので、自分から学べるようなガッツのある人を求めている。応募をかけても、良い人がこないという意見をきく。条件もあまりよい条件はだせないし、求人にかける予算もすくない。この時期の会社は求人に苦労しているということを知ってほしい。

設立してから10年以上の会社で、組織ができてきてリーダーが育ってきている会社の場合、欲しいのは20代中心の若手か、新卒である。研修制度も整う時期である。この時期になると、中途採用は会社の弱点を埋めるためのピンポイント採用である。相当の実績や実力が求められる。狭き門といえよう。

経営陣の出身職種

4つめの軸は経営陣の出身職種である。一般的に、社長が、営業出身の会社は拡大指向が強い。一方、社長がデザイナーやエンジニア出身だと拡大せず25人くらいの規模を理想としているところが多い。営業手法や人材評価が大きくかわってくる。これも、どれが正解という答えはない。ただ、営業主導の会社だと、制作を知らないディレクターがいたり、異常に案件数が多い、スケジュールがタイトなどの可能性が高いリスクがある。

一方で、デザイナー出身の会社だと少人数でやっていることころが多いので、本当にスキルより社長やスタッフとの相性が重要になってくる。

Webサービス会社を知ろう

2000年のとき、Webサービスというと検索エンジンくらいしか選択はなかったが、いまやこの業界は、様々なWebサービスが日々生まれ、百花繚乱といえる状況だ。

クックパッドに代表される料理のレシピ投稿・共有サイト、フェイスブックに代表されるソーシャル・ネットワーキング・サービスなどが挙げられる。Web制作会社とは違い、仕組みをつくって儲けることができるので、少人数で大きな売り上げをあげられる可能性がある。例えば、アメリカの有名なコミュニティサイトを運営するCraigslist(クレイグズリスト)の社員数は30人であるのは有名な話である。

デザイン・開発が一体となったワークフロー

通常の受託のWeb制作だと、設計→デザイン→開発という流れが一般的である。デザイナーはPhotoshopでカンプをつくり、デザインの変更はカンプを修正する。何度か繰り返し、精密なカンプができあがる。お客さんの了解をえると、開発チームにカンプを渡して、開発段階にはいる。

Webサービスの場合は、設計→デザイン・開発というイメージである。デザインと開発がひとつの段階にくっつく。デザイナーとプログラマーでひとつのチームをつくる。デザイン・開発では、静的なカンプをつくりこんでゆかない。カンプはチームの発端で議論のためにつくられる。ワイヤーフレームやカンプではわからないインタラクション(とくにAjax)のところを、チームで議論してゆき、実際に動作するモックアップ(実際に動作するサンプル)をつくっていく。もしくは、カンプをつくらず、ラフデザインだけつくって、先に開発してゆき、そのあとに、ビジュアルデザインをかぶせるやり方もある。

このワークフローの雰囲気は、『RailsによるアジャイルWebアプリケーション開発 第4版』を読んでいただけるとわかりやすい。この本では、ショッピングカートを実際に動作するモックアップを早い段階で、お客さんに随時機能が増えるたびに、みせることによって、フィードバックを得て、お客さんの要望の変化を受け入れて開発してゆくアプローチを紹介している。RailsというRubyのフレームワークの入門書だが、それ以上に、この修正や変化をうけいれるワークフローに驚いた。

Webサービス会社は、どのWebブラウザで見ても、同じ見栄えにはこだわらないアプローチをとっているところが多い。例えば、Twitterは、CSS3をつかっている。古いWebブラウザでも切り捨てず、最低限のアクセシビリティ、見栄え、機能を確保しつつ、最新のWebブラウザでみれば、より高いユーザー体験を提供している。

Webサービス会社の収益方法

Webサービス会社は、基本的に無料でサービスを提供しているところが多い。収益をあげる方法は以下のとおりである。

  • より高機能を提供した有料会員
  • 広告収入
  • 自社システムをパッケージ化

写真共有サイトのFlickrは、メインの写真の保存場所として使う場合、有料会員で利用せざるをえない。ニコニコ動画もヘビーに楽しむには、有料会員のほうが楽しめる。
最後の自社システムをパッケージ化が分かりにくいので、説明しておこう。たとえばオウケイウェイヴという会社はQ&Aのコミュニティサイトを運営している。そのサイトを運営して広告収入を得ている。それに加えて、そのシステムをアレンジして、よくある質問サイトを簡単に構築できるシステムとして一般の会社に貸している。こういう形態をASP(アプリケーションサービスプロバイダ)と呼ぶ。

Web制作会社かWebサービス会社か

どちらがよいのかは、一概にはいえない。両方を経験すると本当はよい。 ただ、良い条件にこだわるならWebサービス会社といえるかもしれない。Webサービスは少人数で大きく儲ける可能性があるビジネスモデルだからだ。スケジュールも、一般的にはWebサービス会社のほうが恵まれているといえる。

2008年以降、人材が、Webサービス会社に流れている印象をうける。あるフリーでやっていた実力のデザイナーと、同じくフリーでやっていたあるプログラマーのブログを久しぶりにみたら、どちらも同じ、某有名料理レシピ共有サイトの社員になっていた。

2008年のリーマンショック、2011年の東日本大震災で、受託制作だけをやっているWeb制作会社は大きな打撃をうけて、社員数を減らしたり、合併や吸収もあった。受託制作は、景気の波をどうしてもうけるのが弱点だし、売上げ予測が読めない欠点がある。一方で、Webサービス会社は生活のインフラになれば、ページビューも安定し、景気の波にも強く、売上げの予測がたてるのが強みである。

ポートフォリオの準備をしよう

何より必要なのはポートフォリオである。資格や学歴より重要である。オンライン上にポートフォリオサイトをつくっておくと、なおベターである。オンライン上につくる場合は、簡潔な1枚構成で、プロフィール、作品、連絡先という構成がおすすめである。

参考になる個人のポートフォリオサイト http://ethanmarcotte.com/ http://www.goslingo.com/

作品は、数が少なくとも、自信作だけに絞りたい。量より質で勝負したほうが印象に残る。余裕があれば、WordPressを使って、ブログを運営してほしい。勉強したことをまとめるだけで、自分の勉強にもなるし、他の人のためにもなる。また、運営をすると、アクセス解析を学ぶ機会を得られる。

ポートフォリオについては、以前書いた記事も参考にしてほしい。

Web業界の応募職種

Webデザイナーとざっくり応募している会社もあれば、もっと狭く応募している会社もある。

  • Webデザイナー
  • マークアップエンジニア
  • フロントエンドエンジニア
  • Webエンジニア
  • Webディレクター
  • Webプロデューサー

マークアップエンジニアは、おもに、HTML、CSSのコーディングの専門家。フロントエンドエンジニアは、JavaScriptの専門家。Webエンジニアは、PHPやデータベースサーバーをつかってバックエンドのシステムをつくる専門家。Webディレクターは、制作チームのリーダーで、サイトのコンテンツ設計、画面設計、お客さんとの交渉、スタッフへの指示、外注管理をおこなう。

Webプロデューサーは平たくいうと営業である。仕事をとってくる人、仕事をつくる人、数字をつくる人である。会社の規模や案件の規模によっては、WebプロデューサーがWebディレクター役を兼ねる場合もある。

将来、独立を考えている人は、制作スキルだけでなく、ディレクターやプロデューサーの経験をしておきたい。とくに営業経験は独立後は貴重になるだろう。

求人広告を探そう

Webサービス会社は、一般の転職サイトか、直接、運営会社のホームページから応募しよう。Web制作会社は、一般の転職サイト以外だと、制作会社専門の求人サイトをみるか、Webデザインの専門誌『WebDesigning』の全国Web制作会社リストを参考にホームページから応募してみよう。ホームページから直接応募の場合、タイミングさえよければ、競争率が低い分、面接までの可能性が高くなる。一方で、求人する気がないのに、ホームページに採用情報をのせたまま放置している会社もある。

WebDesigning 全国Web制作会社リスト:

面接では卑屈にならない

注意したいのは卑屈になってしまうことだ。誰でも最初は業界未経験者である。素人だから...、初心者だから...、勉強させてください...という言い方はしないように注意したい。会社からみると採用とは投資なのである。卑屈にならないためにも、作品は自信作に絞ることである。本やスクールの作例をポートフォリオとしてみせる人がいるが、これはまったくアピールにならない。

逆に過剰なアピールのしすぎにも注意したい。担当者が重視するのは、人柄や最低限のマナーである。小さい会社ほど、現在いるメンバーとの相性を気にする。基本的な挨拶や書類やメールのマナーは注意してほしい。

ポートフォリオの評価は、自ずと面接の面接官の反応でわかる。察して、受け止めるほかはない。面接官によっては、ヒントやアドバイスをもらえる場合もあるが期待せず、反応を観察しよう。

面接に関する心構えは、『Webデザイナー、Webクリエイターのための面接の心構え。面接に受かるには、おでん屋さんでバイトをしなさい』に詳しく書いたので、参考にしてほしい。

どのくらいのスキルが必要か

Web制作会社もいくつかの軸を紹介したように、実際は様々である。応募する会社によって、求めているスキルやレベルは様々である。 制作会社の作品をチェックすれば、求めているレベルは把握できる。

デザイナー募集でも、エンタメ業界の仕事が多いところと、オーソドックスなコーポレートサイトを中心にやっている制作会社では、同じポートフォリオをもっていっても、評価は違う。前者だと、イラストやぶっとんだグラフィックを求めている場合もある。後者であれば、全体の構成力や文字組みをチェックされる。同じデザイナーでも期待しているものがまったく違う。一般的には、Webサービス会社のほうが、デザイナーにイラストが描ける人を求めている会社が多い。デッサンやラフスケッチもみせたほうがよい。ビジュアルデザインよりコーディングが得意な人は、マークアップエンジニアやフロントエンドエンジニアという職種を目指すとよい。

オールマイティ型がいいのか、専門型がいいのかも意見が分かれる。こればっかりは、能力や準備時間による。実際、勉強すると、フロントエンドスキル(デザイン、HTML、CSS、JavaScript)だけでも極めるのは相当大変である。一方で、バックエンドに興味がある人は、バックエンドスキルに絞ったほうが無難だとおもう。私自身、フロントエンドスキルとバックエンドスキルの両方を習得しようと努力はしてきたが、想像以上に両方を同時にまたぐのは難しい。1年くらいの短期の準備期間であれば、まずは、どちらかに絞り潜り込むのが現実的だろう。

ただ、実装によっては、フロントエンドスキルとバックエンドスキルの一部をまたぐことがある。たとえば、レスポンシブWebデザインは、基本的にはフロントエンドの技術だが、一部、サーバーサイドで、画像や一部分のHTMLの出力を変更する処理をすることがある。こういう場合、基礎程度の、サーバー側の言語の知識が必要になってくるだろう。

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