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"日本人にとって文字は水であり、米である"

記事公開日:2016年10月13日

名言集

活字という地味な存在は、華やかなグラフィックデザインとは対極にあるもののように思う。主張しないデザインであるがゆえに文章が自然に読めて内容がこころの中に吸い込まれるように入っていく。そんな役割を担う文字に私は言いようのない親しみを覚えた。(中略)活字そのものはたいした意味をなさない。しかし、その活字によって組まれた文章が意味を持ち、物語を作り、思想を伝え、そして文化となる。
帰り際に小塚昌彦さんが発したことば、「日本人にとって文字は水であり、米である」を聞いた瞬間に、鳥海山や庄内平野や日向川など私が生まれ親しんだふるさとの風景を思いうかべ、書体制作の道に進もうと思った。
四年生になって、大学の就職課の壁に貼りだされた企業からの社員募集の用紙の中から書体作りをさせてくれそうな会社を探すと、唯一、「株式会社写研 書体デザイナー 一名募集」というのがあった。
私は単純なので他の会社には目もくれず、その会社一社だけを受験した。バカな話だが、私は落とされても入るつもりだった。

文字を作る仕事』(鳥海 修著、晶文社、2016)からの引用です。 鳥海さんはヒラギノシリーズや游明朝体、游ゴシック体の制作で知られる日本を代表する書体デザイナーです。ご自身は控えめに書体設計士と名乗られています。

鳥海さんが大学生の時に、篠原榮太先生に連れられて毎日新聞社のフォント製作課に見学にいきます。まだ金属活字で印刷していた時代です。

現場を案内をしてくれたのは小塚昌彦さんでした。小塚さんは後にモリサワに移り、リュウミンのファミリー化や新ゴを制作。さらにその後、アドビに移り、小塚ゴシック、小塚明朝を制作します。

そこで活字の元になるレタリングをしている光景に出会い、世の中に文字をつくる仕事があることに驚きます。小塚昌彦さんの言葉に衝撃をうけ、鳥海さんは書体デザイナーへの道を強く志します。

本書は文字の作り方の技術書ではなく、少年時代やいままで出会った人の思い出を綴ったエッセー集です。鳥海さんのデザインの土台にある価値観に触れることができます。

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